ことばの通い路

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2021 日本ダービー回顧~桜花賞と毎日杯組を中心に

今年の日本ダービーが終わりました。

1.7倍に支持された無敗の皐月賞馬エフフォーリアは惜しくも2着、栄冠を手にしたのは毎日杯を勝ってダービーに直行したシャフリヤール。

ウオッカ以来の牝馬のダービー制覇を狙った私の本命サトノレイナスは5着に敗れました。

普段レース回顧をブログに書くことはないのですが、今回はいくつか書き留めたいことがあったので、自身の思考の整理とこの結果を今後の競馬予想に繋げるためにまとめることにしました。

桜花賞毎日杯のラップ

まず初めに、桜花賞毎日杯のレースラップを振り返ります。

「競争馬は走る距離を知らない」ので、直前の経験はレースに大きく影響してきます。

各種数字はnetkeibaさん、競馬ラボさんから持ってきています。*1 *2

桜花賞

ラップ:12.1 - 10.8 - 11.2 - 11.1 - 11.6 - 11.2 - 11.2 - 11.9

ペース:12.1 - 22.9 - 34.1 - 45.2 - 56.8 - 68.0 - 79.2 - 91.1

前半:4F 45.2 - 3F 34.1/後半:4F 45.9 - 3F 34.3

桜花賞は年によってペースにばらつきがあり、過去10年でも4秒後傾のスローペースだった年から3.1秒前傾のハイペースだった年まであります。

今年の桜花賞は0.7秒前傾でしたが、前後半タイム差1秒以内と考えればミドルペースと言えそうです。

ただ、今年の桜花賞が特殊だったのは異様なまでの時計の速さです。

ソダシの勝ちタイム1:31.1はレースレコード、ラップを見ても3ハロン目以降11秒台を刻み続けていますが、この3ハロン目以降に12秒台が出現しなかった年は過去10年で一度もありませんでした。

サトノレイナスはスタートで出遅れコーナー通過順15-16とほぼ最後尾を追走し、直線前が開いてからようやくスパートをかけ上がり3F最速の32.9の脚で追い上げましたがソダシに届かず2着でした。

毎日杯

ラップ 12.4 - 11.2 - 10.9 - 11.4 - 11.7 - 11.9 - 11.5 - 11.2 - 11.7

ペース 12.4 - 23.6 - 34.5 - 45.9 - 57.6 - 69.5 - 81.0 - 92.2 - 103.9

前半:4F 45.9 - 3F 34.5/後半:4F 46.3 - 3F 34.4

毎日杯は過去10年でスローが6回、ミドルペースとハイペースがそれぞれ2回ありましたが、今年は前後半800m比較で0.4秒前傾のミドルペースでした。

こちらも後半8F連続で11秒台などという年は過去10年で一度もなく、今年の阪神がいかに高速馬場だったかということが分かります。

勝ったシャフリヤールは4-4、2着のグレートマジシャンは6-6と先行~中段前目を追走していました。

ダービーのレース展開

ダービーのラップタイムと1~5着馬までのコーナー通過順は以下の通りです。

ラップ 12.2 - 10.6 - 12.2 - 13.0 - 12.3 - 12.4 - 12.8 - 11.7 - 11.4 - 11.5 - 10.8 - 11.6

ペース 12.2 - 22.8 - 35.0 - 48.0 - 1:00.3 - 1:12.7 - 1:25.5 - 1:37.2 - 1:48.6 - 2:00.0 - 2:10.9 - 2:22.5

前半:4F 48.0 - 3F 35.0/後半:4F 45.3 - 3F 33.9

1着シャフリヤール 7-7-11-9

2着エフフォーリア 3-4-9-9

3着ステラヴェローチェ 13-14-13-12

4着グレートマジシャン 11-13-9-9

5着サトノレイナス 7-4-2-2

これを見て私が気になったのは、サトノレイナス毎日杯組の位置取りの差です。

桜花賞毎日杯も前傾気味のミドルペースで時計は非常に速く、ほぼ同じようなラップで推移しています。

また一般的に距離延長ではペースが緩む傾向があり、実際桜花賞毎日杯に比べてダービーは前半のペースが明らかに緩んでいるのが分かります。

サトノレイナスは前走前々走と出遅れて後方からの競馬が続いていましたが、ダービーは五分のスタートが切れました。

1コーナーでは良いポジションに付けたように見えましたが、向こう正面でそのまま進むと2、3番手まで押し上げ、大欅の手前で既に先頭に並びかけていきました。

これは2017年にルメール騎手がレイデオロでやったように、ペースが遅いと見て押し上げていったのかと思っていましたが、レース後のコメントを見る限りそうではないようです。

「1、2コーナーではいい位置を取れました。ただ、流れが遅くて向正面では我慢が利きませんでしたね。直線もよく頑張っていましたが、外にモタれていました。いいレースはできましたが、完璧ではありませんでしたね」*3

この「流れが遅くて我慢が利かなかった」というのは、デビューから一貫してマイルを使われ、また位置取りは後ろだったとはいえ前走前々走と高速馬場のミドルペースのレースが続いた影響があったと言わざるを得ません。

対して毎日杯組の2頭はサトノレイナスとほぼ同じ速いペースの前走を経験したにも関わらず、後方で脚を溜め直線差してくることができました。

桜花賞毎日杯で200mの距離の差はありますが前走経験はほぼ同じようなものだったと言っていいはずです。

それなのになぜサトノレイナスは我慢が利かず行ってしまい、毎日杯組は後ろで溜める競馬ができたのか。

もちろん馬の個性の問題だと言われればそれまでですが、一応何らかの理由付けがほしいということで色々考えてみました。

その結果、パトロールビデオにヒントを見つけることができました。

トロールビデオ分析

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これは1コーナー手前のパトロールビデオの映像ですが、黄色い印のシャフリヤールがグラティアスを、橙印のグレートマジシャンがワンダフルタワンをそれぞれ前に置いているのがわかります。

しかしサトノレイナスは内のアドマイヤハダルが下げ、外のバスラットレオンがハナを奪いに行った結果回りに馬がおらず、毎日杯組のように前に馬を置く形を作ることができませんでした。

この後すぐにシャフリヤールの横、グラティアスを斜め前に見るような形で1~2コーナーを通過します。

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次に2コーナーを通過し向こう正面に入ったあたりです。

パッと見で分かりますが馬群が大きく3つの縦の列に分かれています。

シャフリヤールは真ん中の列の前から3番手でヴィクティファルスを前に置き、グレートマジシャンは外の列の前から3番手で変わらずワンダフルタワンを前に置いています。

対してサトノレイナスは外の列の先頭に立ってしまいました。前を遮るものがないサトノレイナスは、じりじりと位置取りを上げていきます。

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しばらくそのまま進むと、シャフリヤールの後ろにいたはずのヨーホーレイクが外の列に張り出してきて、グレートマジシャンが隊列の外に弾き出されてしまいます。

このままならグレートマジシャンも前を遮るものがなくなり進出していってしまいそうですが、そうはなりませんでした。

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3コーナーのカーブに入るあたりで、外からアドマイヤハダルとディープモンスターが合わせるようにグレートマジシャンの外を上がっていきます。

これでグレートマジシャンはまた前に馬を置きつづけることになりました。

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直後の後ろからの映像ですが、確かにグレートマジシャンの前にアドマイヤハダルとディープモンスターが入っているのが分かります。

外から上がっていたこの2頭に影響を受けたかは分かりませんが、800mの標識を過ぎたあたりでサトノレイナスは一気に仕掛けて先頭に並びかけます。

その間もシャフリヤールはヴィクティファルスの後ろでじっとしていました。

これらの一連のパトロールビデオ映像から、終始前に馬を置き続けることができたシャフリヤール、グレートマジシャンに対して、サトノレイナスは前に馬を置いて落ち着かせることがほぼできず、少しずつ位置を押し上げていっているということが分かります。

これでは前走で見せた3F32.9の極上のキレ味を発揮することはできず、3着争いも最後は後ろから来たグレートマジシャンとステラヴェローチェに交わされてしまいました。

まとめ

前走で同様に速い流れを経験していたシャフリヤール、グレートマジシャン、サトノレイナスですが、前に馬を置いてペースに適応した毎日杯組、そうはならず我慢を利かせられなかったサトノレイナスで差が出たように思います。

サトノレイナスはこの3頭のどの馬よりもよりも外の16番枠に入ってしまったこと、左右の馬が下げたりハナに行ったりで後ろに付けられるような馬がいなかったこと、珍しくスタートが決まったことなど、これらの要因が複合的に噛み合った結果このような前目での競馬になったと言えます。

変な言い方ですが、もし今まで通りスタートで出遅れていれば、もっと後ろの位置取りで何らかの馬の直後に付けられたかもしれません。

そうなっていればステラヴェローチェのように直線だけの競馬でも楽に3着に突っ込んできた可能性は高いと思います。

しかし、それでは着を取ることはできても勝つことは難しかったでしょうし、スタートも決まった以上勝ちにいくために道中前目のポジションを取るという選択は決して間違ってはいなかったはずです。

上記のダービーのコーナー通過順を見ても分かるように、サトノレイナス以外は全て4角9番手以下から差してきた馬です。

4角4番手だった6着タイトルホルダーには2馬身の差を付けており、先行して残した馬はサトノレイナスだけでした。

基本的に出遅れて差しに回る競馬しか経験がなかったサトノレイナスがこのような競馬でも結果を残せたことは大きな収穫ですし、ダービー1、2着馬と比べても全く引けを取らない能力を発揮したと思います。

中央競馬全体として牝馬のレベルが上がっているのかは未だ検討の余地があると思いますが、少なくとも古馬混合のGⅠなど超一流の舞台で活躍する牝馬が増えているのは事実です。

今後もサトノレイナスのような明らかに抜けた馬いるようなら是非牡馬戦線に殴り込みをかけてほしいですし、今回のダービー参戦及び健闘が今後の牝馬の牡馬クラシック挑戦の追い風になればいいなあと思っています。

競馬にたらればは禁物ですが、そうは言ってももしもう少し内の枠に入っていれば結果はきっと違うものになっていたのでは…と私のような未熟者はつい考えてしまいます。

最後に他の馬を簡単に振り返りましょう。

ダービーは最も運の良い馬が勝つと言われるくらいですから、枠を利して、位置取りを利して、差し有利の馬場バイアスを利したシャフリヤールが完璧な競馬をしたことは揺るぎない事実です。

血統的にもディープインパクト×米国系はダービーの王道配合ですね。*4Essence of Dubaiドバイマジェスティの真の力を見た気がします。

アルアインは520kg前後で走る大型馬でしたが、兄に比べて馬体重が50kg以上軽いのでこれだけのキレが出るのかなあと考えています。

こちらも参考に。

ダービーを勝つディープ産駒はなかなかその後にパフォーマンスを伸ばせない馬が多いので、今後に注目していきたいです。

エフフォーリアはコントレイルで言うところの東スポ杯のような強烈なパフォーマンスがなかったので、そう簡単に無敗の二冠馬にはなれないだろうと思っていました。

皐月賞の3馬身差もカラクリとまでは言いませんがかなり色々な要素が絡んでいたと思いますし…

結果は首の上げ下げでほんのわずかの差でしたが、私の直感が当たってほっとしているというのが正直なところです。

また、朝日杯、共同通信杯皐月賞と本命を打ち続けてきたステラヴェローチェが3着に来てくれたことはとても嬉しかったです。

ダービーこそ本命を打てませんでしたが、3F33.4の鋭い差し脚を見せてバゴの能力を証明してくれたことは感謝しかないです。

凱旋門賞にも登録しているようですし、次走以降も非常に楽しみです。

バゴについては考えていることが結構あるのでまた近いうちにブログを書きたいと思います。

それでは。